明治大 2020 国語『中動態の世界』解説・下
引き続き明治大の国語(経済政治学部 2020年2/11)の論説文の解き方です。
上・中で文章の内容はご理解いただけたでしょうか。
いよいよ設問の解説に移ります。
上は こちら
なおこのブログでは、レイアウト・編集の都合から、このように問題を最後にまとめて解いています。みなさんがテスト本番でも同様にすることを推奨してはいません。ご了承ください。
- 問一
オーソドックスな接続詞の問題ですね。
判別しやすいのは [b たとえば] でしょう。七段落で便所掃除を例を出すと宣言し、便所掃除のプロセス=ブラシを動かすという記述がありますからね。これで①か④に絞られます。
次は [d しかし] に着目したいですね。「(他人に)便所掃除をさせたい」という目的を果たしてはいても、「事実上、自分が便所掃除をするはめに陥ってしまう」のでは、ムダ行為です。一義的には目標達成しているようでも総合的には無意味なのですから、「しかし」を使うのが自然ですね。
今回はこの b と d を見定められれば、①にたどり着けます。
この手の問題は、すべての項を精査しようとするとタイムロスが激しくなってしまいます。
判別しやすい項を参照して、選択肢を潰していきましょう。
逆にハッキリさせにくい項(今回は a や e がわかりづらいですね)は、いったん棚上げしてしまって構いません。
- 問二
堅実な問題ですね。
選択肢の意味をすべて把握したうえで、本文の文脈を踏まえて選択したいところです。
もし①~⑤の語にあやふやなものがあれば、辞書を引いたうえで記憶しておきましょう。
さてさて。
Xのある第十段落は、「便所掃除をさせるために相手の自由を奪うのは意味がない」とする第九段落と、「脅迫によって行為を産出できる」とする第十一段落の間にあります。
第十段落は、「目的を有意義に達成するには、どのような差異が必要か?」を示しているとも言えます。ムダなものから有意なものへの転換点です。
①はなんともポっと出感があります。自由が奪われている状態を彷彿とさせる語ですが、行為を産出するためには相手が自由でなければならないという記述と矛盾します。
②はしっかりと読解した今なら明らかに違うとわかりますね。本文における暴力は一般的な暴力と違いますし、される側が暴力的という仮定は一切記述がありません。
③は「行為の産出」にやや意味が被っているように見えます。
が、掃除をさせる側にとって生産的であることと、掃除をさせられる側が生産的であるのとは、意味が異なります。そして本文で言及があったのは前者だけですね。
本文中で語られるのは、あくまで行為(=動作・動詞)の価値です。させられる側(人間・名詞)の価値にはほぼ*1触れていません。ので×
⑤は変に深読みすると引っかかるかもしれません。権力によって行為を産出させられる状態を、十五段落で服従と表現していますからね。
しかし、服従は権力を行使する側が脅すなどしてはじめて得られるものです。一方、第十段落の記述を言い換えると、「Xな相手に権力を振りかざすと、行為を産出できる(服従を得られる)」となります。
このXに「服従的」が入ってしまうと、「服従的な相手に権力を振りかざすと、服従を得られる」となってしまいます。あべこべですね。
よってここは④になります。
九段落の暴力的な掃除では相手を受動的な状態に置いていることと、対照的なことに注目しましょう。自由が奪われているのと、ある程度自由なのとも同様です。
- 問三
この問三からは、差が出る問題になってきていると思います。
それらしい記述のあった選択肢を選ぶだけでは、正解にたどり着けません。
が、ねっとりと本文を読み解いた今ならば、納得できるはずです。
Yの前後の記述を確認しましょう。
十七段落は、権力と暴力が取り違えられがちなのは、場合によって権力も暴力を少し利用するからとしていました。
このブログでは、原始人を服従させるにはどうするか、という例で示しています。
銃を知らない人間を従わせるためには、発砲し殺傷能力をわからせるしかない。
それによって重傷を負う者が出てくるけども、他の者が命令に従うことを選ぶ可能性が上がる。
そして十八段落は、この際の暴力の程度について語っていましたね。
文章中の言葉を使うと、被弾するなど過剰な暴力を受けた人間は、「受動性の極」に置かれ、自由を奪われます。「抵抗できないほどに衰弱」するのとほぼ同義でもあるでしょう。
なので、被弾した人間が増えれば増えるほど、便所掃除をさせることもできない人間が増えることになります。
権力を使う側がラクをしつつ、使われる側に便所掃除をさせるには、被弾していないながらも従うことを選ぶ者が多い方がよい。
被弾する者は少ない方がよいが、ゼロだと権力が効果を持たない。
いわば権力の行使にとって暴力は、必要悪です。
これらを踏まえて選択肢を見てみましょう。
①は単体で見れば正しくはあります。が、Yの直前部「権力はたしかに暴力を限定的に用いることがあるが」と意味がほぼカブっています。逆説のあとに続ける文として不適切ですね。
③はそれらしいことを言っているだけですね。「暴力は究極の受動性を生み出す」とか「暴力の有り様は能動性と受動性の明確な対立である」とかなら一応本文の内容と合致はしますが、それにしたって十八段落の論点からズレています。
④はちょっとややこしいですね。七段落周辺であれば、どちらも「嫌がる相手に便所掃除をさせる」のが目的との解釈もできたでしょう。
が、便所掃除をさせるという大目標が同じだからといって、そこに至るまでの中目標も同じというわけではありません。暴力は掃除をさせるために自由を奪うことが中目標で、権力は掃除をさせるために自由を残すことが目標なので、同一とは言えません。
もし仮に、目的というのが大目標のことを指しているとしたら、それはそれで話が戻るだけなので、やはり④は不適です。
⑤はまず言葉足らずです。「権力を受ける側は受動性と能動性の両方をかねそなえている」ならともかく、権力そのものに両方が備わっているわけではありません。権力を使う側には受動性がありもしません。Y以前との分のつながりもイマイチですね。
その点②は、十七段落周辺の論旨を簡潔にまとめて言い換えています。
人から元気を奪う暴力は、元気な人をこき使わせようとする権力のジャマになります。これは対立ですね。
「権力と暴力は対立しているという記述が本文中にないから②は違うと思った!」という受験生の方は少なくないのではないでしょうか。
しかし、改めて考えてみてください。同じことを何度も繰り返し言っても、話は進まないんです。論説も小説も論が進まなければ意味がありませんから、必要でない限り言葉を反復することはありません。ジョルノ・ジョバァーナにも怒られます
本文中から根拠を探すのも大事ですが、大学の偏差値が高ければ高いほど、それだけでは通用しないということも肝に銘じておきましょう。
- 問四
全体の文意が掴めていれば易しく、そうでなければワケがわからない問題ですね。
日常で使う暴力と本文中の暴力を分けること、暴力がなすことと権力がなすことを混乱させなければ、解けるはずです。
①は主語が権力になってしまっていますね。質問に答えていません。
「ごはんがおいしいのはなぜか?」
「外国に住むと日本のコメが恋しくなるから」みたいになっています。
②は質問にも答えていないし本文の内容ともイマイチ合いません。
「ごはんがおいしいのはなぜか?」
「ごはんとおかずの関係には、塩気とうまみのほかに、塩気とアミノ酸があるから」
何の話だよ。
③ボーボボみたいになっとる。
「ごはんがおいしいのはなぜか?」
「おかずを食べると味わいながら料理できて、おかずだけでなくごはんの味も落ちるから」
④は完全に権力の話をしていますね。
「ごはんがおいしいのはなぜか?」
「ワカメでも豆腐でもナスでもなめこでも、好きな具と一緒にして飲めるから」
一見会話が成立しているようでも味噌汁に切り替わっちゃダメですね。
というわけで⑤です。
問三と比べると本文中で再三語られたことなので、拍子抜けしたかもしれません。が、こういうこともあります。
- 問五
七~九段落で示された手順がムダ行為だったのを思い出しましょう。
これね。
自由を奪ってする掃除では、相手に掃除をさせたところで自分がラクできないのでムダ。
あとは、[ムダではない=有意義である] と、[ラクをできる=行為の産出]を結び付けられるとオッケーですね。
「限界があるのはなぜか?」
「行為を引き出すことができない(=仕事を押しつけてラクできない)から」
無理なくつながってますね。
- 問六
嫌われがちな記述問題です。今回は、全体の読解ができているかを確かめています。
本文の展開はすべて「暴力のような能動・受動の関係とは違い、権力は能動・中動で表すのが正しい」という結末に繋がっています。 なので問六は、主旨を答えればそのまま正解になります。
回答する人によってブレはあるかと思いますが、下線を引いたところが含まれていれば正解になると見ていいでしょう。
問七
まずは脱落文を検証します。
本文で「事例」といえばやはり便所掃除の例えですね。そして、「直接に身体に働きかけ」「手を強制的に動かされ」「可能性は閉ざされている」これらすべてを考慮すると……
権力を用いた方ではなく、暴力を用いた方だと判断できます。
権力は直接働かせもしなければ、手に強制もしなければ、可能性も残しますからね。
でもって、暴力的掃除の例を挙げている段落は八、九、十四段落です。
このうち、八・九段落に入ると「可能性」の語が浮いてしまいます。本文で最初に可能性が語られたのは十三段落ですから、それより前に浮いた言葉が入るとむやみな混乱を招くだけになってしまいます。
著者だって決して読者を煙に巻きたくて本を出しているわけではないので、十四段落に定まります。
- 問八
各選択肢を精査する問題ですね。
「合致するものを選ぶ」なので、問三・問四以上に消去法を徹底します。合致しない箇所があれば、その地点で間違いですからね。
①は弾く箇所がありません。すべて最終段落の内容と合致しています。
「疑問を提示する」という言い回しが弱々しく見えますが、間違っているとの判定ができるほどではないですね。
②は後半が違います。
暴力を使えば屈服させることはできるかもしれませんが、服従させることはできません。十五段落で、行為を引き出す=服従を獲得するとされていたことを確認しましょう。そして暴力を振るわれた者は元気がなくなり、もう行為を産出できません。
③は後半で謎の良心を出してしまいました。
誰のものかわからない理想など出してきているので不適です。
④は「常に相手に自由に行為させる」が違います。
常に自由になったら、命令なんか聞かずに逃げてしまいます。
十段落などで、「ある程度」自由と言われているのが根拠でもあります。
⑤は「完全に受動的な状態」が違います。
脅しにとどまっているならこれは権力行使で、権力行使の場合はある程度能動的な中動にあるわけですから、食い違ってしまいます。
それ以外は合致しているので、この一か所を見抜けるかがカギですね。
いかがだったでしょうか。
生半可な塾よりもずっと詳しく、現代文解き方をお届けできたかと思います。
みなさんの学力向上に役立てば幸いです。
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では、今回はこのへんで。
今後取り上げてもらいたい問題があれば、リクエスト受付へどうぞ。
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当記事は、明治大学および『中動態の世界 意志と責任の考古学』からの引用が含まれます。該当箇所の著作権は大学ないし著者に帰属します。明治大学または著者からの要求があった場合、すみやかに当記事を修正・公開停止いたします。
*1:十六・十七段落で、させられる側が衰弱していてはいけないとは言っていますが、衰弱しているから生産的ではない、と言っているわけではありませんね